高知から、世界とつながる-140年企業「井上石灰工業」が描く、地域と未来のかたち

井上石灰工業株式会社(以下、井上石灰工業)とは、農業・食品・自動車など多分野にわたり、伝統的な用途から化学製品まで幅広く石灰を取り扱っている会社です。時代の変化とともに“高付加価値製品”への転換を進め、現在では国内のみならず、海外にも積極的に進出しています。

 

高知県南国市を拠点に事業を展開し、2024年に創立140周年を迎えました。その長い歴史の中で何を守り、何を変えてきたのか。そして、これからの地域・社会に対してどんな責任を果たそうとしているのか。代表取締役社長井上孝志さま、管理本部西垣和輝さま、営業本部松堂可依さまからお話をお伺いしました。

 

高知に住んで、世界で活躍する

──井上石灰工業 代表取締役社長 井上孝志さまのインタビュー

井上石灰工業は、長く建材や農業用石灰といった“定番商品”を扱っていました。しかし、時代の変化とともに“高付加価値製品”への転換を進め、自動車・医薬・食分野などの市場にも参入。現在では海外の売り上げ比率は3割以上になっています。

 

転機となったのは、自動車産業のグローバル展開に歩調を合わせた“顧客と共に世界へ出る”姿勢でした。

 

社長がよく使うフレーズのひとつに、「高知に住んで、世界で活躍する」があります。これは、単なるキャッチコピーではなく、経営の軸となっている価値観です。

 

「高知に根を張りながら、世界に挑む。これは、うちの社員たちの働き方そのものです。地方にいるからといってチャンスがないわけじゃない。逆に、“ここから世界とつながっている”という実感があれば、働くモチベーションも上がると思うんです」

 

理念を現場に落とし込むことで、人も企業も、地域も育つ。その姿勢こそが、井上石灰工業が“高知から世界へ”挑み続けられる理由なのかもしれません。

 

井上石灰工業の高知への想い

井上社長が海外市場に事業を拡大する背景には、「人口減少」への危機感がありました。

 

 「今の高知は、出ていった若者が帰ってこられる“受け皿”がない。だったら、企業がその 役割を担わなきゃいけない。つまり、魅力ある雇用をつくること。そして、ちゃんと給与 を支払える体力を持つこと。これが企業の社会的責任です」

 

このような想いに基づき、井上石灰工業では「高知県内でもトップクラスの給与水準を目指す」という経営方針を掲げています。具体的には、2034年までに年商100億円を達成するという、単なる業績目標ではない“覚悟”を伴ったビジョンを持っています。

 

「企業の成長は、社員一人ひとりの成長によって実現されるもの。そしてそれは、社員が地域に住み続け、暮らしを支え、次の世代にバトンをつなぐという循環を生む。だから、うちの会社が一社でも地域を支える力になれれば、高知の産業や働き方の景色もきっと少しずつ変わっていくと思うんです。」

 

企業としての持続可能性を追求するだけでなく、地域社会の中で“なくてはならない存在”になること。それが井上社長の描く「地域企業としてのあり方」です。

 

営業もサービスも、“人”で選ばれる会社に

井上石灰工業では、技術や知識、経験だけでなく、「人としてどうあるか」という姿勢に重きを置いた社内研修が行われています。その中心にあるのが、“人間学”を取り入れた社内研修の実践「木鶏会」です。

 

「私たちは“人間学”をベースにした勉強会を定期的に開いています。部署・役職や営業所の垣根を超えて集まり、社員一人ひとりが“何のために働くのか”“仕事とは何か”などを自分の言葉で語るんです」

 

この学びの場では、実際の業務の話から家族との関係、人生観まで、さまざまなテーマが自然に共有されるようになっています。そこにあるのは、効率や成績だけでは語れない、「人としての信頼」を育てる企業文化です。

 

「お客さんに“あなただから買うよ”と言っていただけるような営業を目指したい。それって、結局“人柄”と“誠実さ”の積み重ねなんです。ただ安く売る、モノを並べる、ではなくて、相手の困りごとや願いに気づき、ちゃんと提案できる人になる。営業も製造も、その根っこは“人”なんです」

 

“人間力”を土台にしたこの取り組みは、若手社員にも確実に広がり始めています。経験や実績に関係なく、自分の価値観を見つめ直し、他者と分かち合う機会が増えることで、組織の雰囲気も大きく変わっていきました。

 

「企業としての競争力を高めるのに、“人間としての深み”が欠かせない時代になっています。だからこそ、“人で選ばれる会社”でありたいんです」

 

社内の人間関係、顧客との信頼、地域とのつながり──それらすべての土台に、「人としての在り方」を育む学びが根づいています。

 

失敗を許し挑戦を育む文化

若手社員の育成についても、柔軟かつ大胆な視点を持っています。

 

「新しいことに挑戦する社員は、多少失敗してもいい。むしろ失敗しても挑戦し続ける人が、組織に風を吹き込んでくれる。だから、社内でも“まずやってみろ”って声をかけています」

 

評価されるのは結果だけでなく、挑戦したというプロセスそのもの。それが、社員一人ひとりの可能性を広げています。

 

「若い世代が“この会社で何かできるかも”と思えることが大切。その入り口として、大学生との連携プロジェクトやインターンも積極的に受け入れています」

 

“地域と未来の交差点”としての企業

社長が最も力を込めて語ったのは、「何を次世代に残せるか」という想いでした。

 

「私たちは、先輩たちが残してくれた制度や環境のおかげで今がある。じゃあ、自分たちは次に何を渡せるのか。それを考えずに、自分の時代だけで満足してはいけないんです。」

 

井上石灰工業では、会社の規模拡大だけではなく地域貢献事業にも取り組まれています。その1つが県内企業の有志で構成される「土佐ハチドリ会」。小さくても、“できることを行動に移す”ネットワークです。

 

「火事の中で一滴の水を運び続けたハチドリのように、私たちも“自分にできること”を積み重ねる。そうすれば、社会もきっと少しずつ変わっていく」

 

そんな想いを持った人の輪を広げる取り組みにも力を入れています。

140年企業の次なる挑戦は、製品や売上だけでは語れません。社員の人生と地域社会をどう結びつけるか。若者が「ここで働きたい」と思える場をどう創るか。井上石灰工業の挑戦は、まさに「企業とは何のためにあるのか?」という問いへのひとつの答えでした。

 
 


ここなら、自分の“できる”が見つかる

──井上石灰工業 営業本部流通グループ 松堂可依さまのインタビュー

井上石灰工業で働く松堂さんは、沖縄県出身。高知大学地域協働学部を卒業後、ゲストハウス運営や地域おこし協力隊を経て、同社へと入社しました。

 

お話の中からは、会社の制度以上に、「人」を大切にする文化が垣間見えました。やりがい、つまずき、挑戦。仕事の中で自分を見つけていく日々──そのリアルを語っていただきました。

 

経験を活かせる“余白”がある

松堂さんが井上石灰工業に入社して感じたのは、「前職での経験が思いがけない場面で活かされる」という実感でした。

 

「資料のレイアウトを工夫したり、アイディアを出したり。以前の経験が“ちゃんと意味を持ってる”と感じる場面があって、自信になっています。」

 

過去の経験で身につけたスキルが、思いがけない場面で役立つ瞬間があると、自分がこれまでやってきたことにも意味があったのだと、素直に感じるそうです。

 

 

若手の声がカタチになる場所──「なんでもこい会」が生むつながりと信頼

仕事以外の場面でも経験を活かせる場として「なんでもこい会」の存在があります。この会では、若手社員を中心に、BBQや忘年会の出し物など、さまざまな社内イベントが自由に企画・運営されています。部署や営業所を越えたつながりが生まれ、日頃の業務では見えにくい「素の表情」で関われる安心感が育まれているそうです。

 

「“仕事以外の顔”で関われるのって、すごく大事だと思うんです。“あれしたい、これしたい”って、楽しいことを真剣に考えられる場があるのはいいなと思います。私、運動会とかもやってみたいと思っています。」

 

“やってみたい”という気持ちが冗談のまま流されることなく、ちゃんと耳を傾けてもらえる空気があること。それが、社員の主体性を引き出す原動力になっています。

 

「“楽しい”って、ただ誰かが与えてくれるものじゃなくて、自分たちでつくっていくものだと思います。だからこそ、若手が自由に提案できて、それを一緒に形にしていける場所があるのは、とても貴重だと感じています。」

 

”働く”という日常の中に、遊び心や余白があること。それこそが社員一人ひとりの気持ちを軽くし、チームとしての身体関係を育てる土台になっているのかもしれません。

 

失敗を「責められない」空気があるから、前に進める

仕事のすべてが順調に進んできたわけではありません。当初は、業務や会社の仕組みについて分からないことも多かったと言います。

 

しかしながら、周囲は「わからなくて当たり前」と受け止めてくれました。何かミスがあったとしても、その責任を一方的に問うのではなく、「どこに原因があるか」を一緒に考え、次に活かそうとする姿勢が社内には根付いているそうです。

 

さらに印象的だったのは、「なぜこれをやるのか」、「どういう意味があるのか」といった背景や理由を丁寧に説明してもらえる文化があることでした。

 

「指示だけで動くんじゃなくて、“この作業にはこういう意味があるんだよ”って教えてもらえるんです。だから、自分のやっていることがどこにつながっているのかがわかって、自然と前向きに動けるようになりました」

 

「叱られない」こと以上に、「理解しながら進められる安心感」があること。その土壌が、若手社員にとっての“挑戦する力”を育てているのではないでしょうか。

 

 

変化も迷いも、肯定してくれる会社

松堂さんが井上石灰工業への転職を決めたきっかけは、しっかりと休みを取れるという安定感でした。けれど、実際に働き始めて感じたのは、それ以上に「自分らしさを活かせる空気」があるということでした。

 

働く中で「なんとなく違うかも」と思ったときに動いてみたり、「やりたいことが分からない」と悩んでいたとしても、それを否定されない―そんな安心感が、この会社の魅力だといいます。転職やキャリアの遠回りに不安を抱える人にとって、井上石灰工業は、自分らしくいられる場所になるのかもしれません。

 

 

迷った道にこそ意味がある— 「“ほしい”を出発点に」

「やりたいことが明確でなくても、心の中にある「ほしい」を大切にしてほしい。」

 

松堂さんはそう語ります。たとえば、休みがしっかり取れる職場がいい、人間関係が穏やかな環境がいい、というような、率直な希望を持っていても構わない。むしろ、そうした素直な思いを出発点にしてよいのだと背中を押してくれます。

 

だからこそ、まずは話を聞きに来たり、実際に人に会ってみたりすることが大事。「説明を読むよりも、現場の空気を感じることが、自分に合った場所を見つける近道になる」と優しく背中を押してくれるようでした。

 

インタビューを通じて浮かび上がったのは、数字では測れない“あたたかさ”でした。「失敗を共有財産に変える安心感がある」、「個々のキャリアの迷いを肯定する文化が息づいている」、「ここなら、自分の“できる”が見つかる」 その言葉は、140年企業の制度や歴史より先に、“人”のぬくもりが若手を育てている証ではないでしょうか。

 


“人”を大切にすることが、企業の未来をつくる

──井上石灰工業 管理本部管理グループ 西垣和輝さまのインタビュー

井上石灰工業が掲げる成長の軸にあるのは、「人を大切にする文化」。人事業務を担当する西垣和輝さんは、140年続く企業の根幹にある“人材の重要性”について語ってくれました。

 

井上石灰工業と共に歩む人材を

採用において最も大切にしているのは、スキルや知識などの表面的な能力ではなく、「会社と同じ方向を向けられるか」という視点から求職者を見ているそうです。

 

「井上石灰工業は、140年以上の歴史がある会社です。そのため会社の中に根付いている文化と現在の代表取締役社長の井上のビジョンや目標に共感し、一緒に歩むことができるかが何よりも大切だと考えています。」

 

と西垣さんは語ります。社員一人ひとりが経営理念に共感し、同じ未来を目指せるかどうか。それが、長く安心して働ける環境づくりの鍵だと考えているそうです。

 

井上石灰工業は、会社の規模拡大の中で地方から世界へ歩もうとしています。一方で、地域への貢献を行う事業も次々と展開されています。こうした姿や想いに共感できる方が井上石灰工業さまでは意欲的に働くことができるのではないでしょうか。

 

 

プロジェクトに参加する学生に期待すること

Conexture「アタシュー」のサービスを活用しているのは「採用活動」ではなく、「地域との関係づくり」という視点で捉えてくださっています。学生と直接会話し、会社の雰囲気を肌で感じてもらう機会を積み重ねることで、「ここで働いてみたい」、「関わり続けたい」と思ってもらえるような出会いの土壌を育てています。

 

実際に、採用広報の分野でも学生と共に取り組むプロジェクトを「アタシュー」と進められており、最初の企画として井上石灰工業の社史を作る取り組みをご提示いただいています。

 

西垣さんの言葉からは、「企業の魅力を形づくるのは制度ではなく“人”である」という確信が感じられました。これからも、一人ひとりとの信頼関係を丁寧に育てながら、井上石灰工業は未来をともにつくる仲間を迎え入れていきます。

 

 

取材を終えて 

「地方にいながら、世界とつながる」そう聞いたときは、正直どこか理想論のようにも感じていました。けれど、実際に社長や社員の皆さんの話をじっくり聞く中で、その言葉には地に足のついた実感と覚悟があることに気づかされました。

 

印象に残ったのは、「失敗してもいい」、「まずやってみよう」という社風のあり方です。 社員の挑戦を肯定する空気があるからこそ、若い世代も「この場所で働いてみたい」と思える。そんな信頼と期待が循環していることを、言葉の端々から感じました。

 

また、140年という歴史に甘んじることなく、「次の100年をどう地域と歩むか」を語る姿勢に、企業の“未来志向”を強く感じました。

 

「人で選ばれる会社になる」、「高知に住んで、世界で活躍する」そのどれもが、単なるスローガンではなく、日々の経営判断や社員との関係づくりの中に根づいている。インタビューを通じて、企業が持つ“地域と未来を結ぶ力”の可能性を、あらためて感じさせられました。

詳しくは井上石灰工業さんのHPをチェック!

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